企画担当理事を拝命しております、早稲田大学理工学術院の佐古と申します。
企画担当理事の大きな仕事として、毎年秋に開催されるアドバイザリーボード会議の運営があります。アドバイザリーボード会議ではアドバイザーの皆様から、ユーザ企業とベンダー企業、アカデミア、教育など広い分野から第三者としての意見をいただき、公益に資する情報処理学会の在り方を検討、学会運営への助言をいただくことを目的としています。
2021年の会議では、座長の永井良三先生から、「グローカル公共哲学を実践する社会的共通資本としての情報学」を推進していくことのご示唆をいただきました。「グローカル公共哲学?」「社会的共通資本?」言葉の意味を正確に理解しようと、東京大学出版会から『グローカル公共哲学』という本を出されている星槎大学の山脇直司学長にお願いして、勉強会を開いていただきました。
そして「グローカル公共哲学」とは、各自がおかれた現場や地域に根差しながら、全地球的な視野で公共的な問題(Public issues)を論考する学問・思想のことであり、経済学者宇沢弘文による「社会的共通資本」とは、1つの国ないし特定の地域に住むすべての人々が、豊かな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置である、と教えていただきました。社会的共通資本の具体例としては、大気や水、土壌などの「自然環境」や、道路、水道、ガスなどの「社会的インフラ」そして教育、医療、金融制度などの「制度資本」からなるそうです。
なるほど。まさしく情報インフラは社会的インフラであり、しかもさまざまな制度資本を支える技術でもあります。さらに、デジタルトランスフォーメーションとは、社会的共通資本である制度資本の形を、新しい情報インフラにそぐう形に変容させ、その結果、さらに豊かな経済生活、優れた文化、魅力的な社会を維持することに貢献するものなのだとの理解が深まりました。
そして、社会的共通資本のあるべき姿として、「国家に管理されたり、利潤追求の対象として市場にゆだねられたりしてはならず、それぞれの分野における職業的専門家によって、専門的知見にもとづき職業的規律に従って管理・運営される」とありました。情報インフラを国家が監視装置として使ったり、あるいは海外のプラットフォーマーを潤すための存在にならないようにするためには、情報処理学会に集まる職業的専門家が他の分野のさまざまな専門家と知見を交換し、あるべき姿を模索していかねばならないのだ、と思いを強く持ちました。いみじくも山脇先生の説明ではグローカル公共哲学の担い手として、学者・教員・科学技術者のみならず、一般住民、公務員、ジャーナリスト、NGO/NPO関係者、宗教関係者などが挙げられています。これらのステークホルダーが「それぞれかかわる公共性や公共問題とは何かを、各自がそれぞれ当事者意識をもって現場や地域で問い続け、その成果を諸現場や諸地域に貢献すること」が重要だと書かれています。このようにさまざまなステークホルダーが公共的な対話や議論ができる場を提供し、社会にしっかり発信できる学会でありたいと思います。
さて、今年のアドバイザリーボードは新たに科学技術振興機構の木村康則上席フェローを座長に迎え、
アドバイザーメンバーの半分が新しい顔ぶれになりました。はじめて海外在住のメンバーもいらっしゃいます。今年はどのようなご意見をいただけるのか、今からとても楽しみです。