「監事として学会を眺めると」
岡田 謙一(監事)
皆さんがこのメールニュスを読むころ、私の監事としての2年間の任期はほぼ終了します。ところで学会の監事がどのような役割を担っているか詳しくご存知の方は少ないのではないでしょうか。この記事の依頼を受けたときに、監事の仕事について書こうとテーマを決めたのですが、調べてみると3年前に当時の長谷川監事が「監事のしごと」という記事を執筆しており、公式な監事の仕事について詳しく紹介していました。学会における監事の仕事について興味のある方はそちらを参考にしていただくこととして、今回はもう少し柔らかい裏の話をしましょう。
そもそもどのような人が監事になると思いますか? もちろん学会正会員の選挙で選ばれるわけですが、多くの場合学会の色々な役職を経験した人が候補者として選出されるようです。私も考えてみれば、研究会主査、学会誌編集主査、論文誌編集主査、トランザクション編集長、理事を経て2年前に監事に選出されました。学会の役職はこれで無事卒業という予定です。
監事は重石のような役割であり、学会のさまざまなことに目を配らなければなりません。時折、学会の事務局にも足を運び、コーヒーをご馳走になりながら各担当の方と仲良く世間話をします。一方、理事会では各理事の意見をじっと聞いていることが多く、あまり発言することはありません。またどのような議題に関しても投票権がありません。しかし、理事会では年度終わりに出される監事付帯意見について多くの議論がなされます。この監事付帯意見は学会の方向性や解決すべき課題を指摘したもので、これを提出することが監事の一番大きな仕事です。理事会に関してぜひお伝えしたいのですが、会長、副会長、理事はボランティアとは思えないぐらいハードに仕事をしています。特に副会長と総務理事が大変そうです。皆さんの中で理事を目指す方は心してください。
もう一つの大きな仕事がお金の監査で、これは学会全体の監査と、国際会議やシンポジウムの監査に大別されます。学会全体の監査は公認会計士がきちんとした仕事をしていますので、その説明に従って書類をじっくり見て順番に確認していけばよいので、時間はかかりますがそれほど大変ではありません。問題は、多くの場合大学の先生や企業の素人の方が財務を担当している国際会議です。財務報告書の書式はバラバラだし、最初は領収書が不足していることもよくあります。学会の事務担当、会議の財務担当、監事2人で会議室にこもって書類をチェックをしますが、後日やり直しということもあります。国際会議やシンポジウムもボランティアベースですから本当に大変だと心から思います。
こう書き進めていくと学会活動は大変なことが多いような文章になってしまいました。しかし、そもそも学会の原点は同じことに興味を持った人が集まって、情報を交換し、知的触発を受けて楽しむことだったのではないでしょうか。いつでもどこからでもインターネットにアクセスしてさまざまな情報を得ることができる時代になり、わざわざ学会に参加しなくてもすむような雰囲気があります。実際に情報処理学会員も減少の傾向にあり、理事会でも大きな問題として毎年取り上げられ、学会が提供すべき新しい価値とは何かという議論もされています。私は大学4年生のときから40年以上情報処理学会にお世話になってきましたが、自分のこれまでの研究生活を振り返って思い出に残っているのはすべて体感したことでした。画面を通して知ったことは役に立ちますが、人生の思い出にはなりません。学会では全国大会、研究会、シンポジウム、セミナなどいろいろな企画が用意されています。昔々「書を捨てよ町へ出よう」という言葉がありましたが、より豊かな人生を送るために「ネットを捨て学会に参加」してさまざまなことを体感し知的な楽しみを満喫しましょう。