「情報処理学会の技術応用活動と産業界への貢献」
小川 秀人(技術応用担当理事)
「技術応用」の分掌は情報処理学会の一般規則で「セミナーに関する事項、ITフォーラムに関する事項、デジタルプラクティスの編集に関する事項、高度IT資格制度に関する事項」と定められています。情報処理学会が提供するセミナーには、連続セミナー、短期集中セミナー、Exciting Coding! Junior(小中学生向けプログラミングセミナー)、他団体との共催セミナーなどがあります。
このうち連続セミナーは、産業界の視点から関心度の高いテーマや注目のテーマ、技術の先進性に富んだテーマを取り上げ、第一人者を講師として迎えるセミナーシリーズです。今年度の連続セミナーのテーマは「人とAIが共生する社会に向けた情報技術」であり、6月から12月までの12回の開催を予定しています。技術応用担当理事の大きな仕事の1つは、この連続セミナーの企画です。有料セミナーではありますが、テーマと講師陣の充実度から価値があるセミナーであると自負しています。来年度の連続セミナーの企画を考え始める時期となりましたので、セミナーへのご要望やご期待があれば、情報処理学会までお寄せいただければ幸いです。他のセミナーも含めてぜひ参加をご検討いただきたいと思います。
高度IT資格制度は、ITスキル標準レベル4以上に相当する技術者を「認定情報技術者」(CITP: Certified IT Professional)として認定する制度です。この制度は、国際的なプロフェッショナル資格制度(IP3P: International Professional Practice Partnership)として認定され、グローバルに通用する資格です。毎年春と秋に申請を受け付けていますので我こそはと思う方はチェックしてみてください。
これらの事業は情報処理学会が主に産業界に向けて提供するサービスです。私自身、民間企業の研究所に所属してソフトウェア開発実務にかかわりつつ、ソフトウェア工学分野での研究活動を行ってきました。その経験から、学術と産業は異なる立場や目的を持っているものの、互いに補完し合う存在であるべきと強く感じています。特に「情報処理」は研究領域であると同時に、産業領域を表すものでもあります。産業における課題の解決が学術研究の動機となり、学術研究の成果が産業に応用されることで、情報処理は進展してきました。
ただし私は「技術応用」という言葉に違和感も少しあります。この言葉からは、技術=学術的成果の産業応用という方向性が感じられます。しかし産業界が生み出して社会に浸透していった技術や研究成果も多く存在します。そのため産業界が生みだした実務的成果が学術に貢献する方向も重要だと考えています。その一例が、情報処理学会の論文誌「デジタルプラクティス」です。また多くのシンポジウムやワークショップ等では、実務的成果を発表するセッションや、それを表彰する制度があります。これらを通して産業界から学術界へのアプローチがさらに進展することを期待しています。
最後に、私が産業界の一員として研究活動を行う中で、大切にしている言葉を引用します。1998年に発表された「国立8大学工学部を中心とした工学における教育プログラムに関する検討」における「工学」の定義です。「工学とは数学と自然科学を基礎とし、ときには人文社会科学の知見を用いて、公共の安全、健康、福祉のために有用な事物や快適な環境を構築することを目的とする学問である。工学は、その目的を達成するために、新知識を求め、統合し、応用するばかりでなく、対象の広がりに応じてその領域を拡大し、周辺分野の学問と連携を保ちながら発展する。また、工学は地球規模での人間の福祉に対する寄与によってその価値が判断さる。(原文ママ)」
四半世紀前に検討されたものですが、社会的価値が重視される現代においてこそ、工学に限らずあらゆる研究活動において大切にしたいと感じています。「技術応用」を通してその一端に貢献したいものだと考える次第です。