「『情報教育課程の設計指針』の改訂に向けて」
中山 泰一(事業担当理事)
本年(2025年)は,共通テスト「情報」元年1)です.本年1月19日に実施された大学入学共通テストで,「情報」が出題教科となりました.約30万人の受験生が「情報」を受けました.「情報I」の平均点は69点とのことです2).
高等学校の教科「情報」は2003年に設置され,当初,3科目「情報A」,「情報B」,「情報C」(各2単位)からの1科目の選択必履修でした.2013年から実施された学習指導要領では,2科目「社会と情報」,「情報の科学」(各2単位)からの1科目の選択必履修となりました.そして,2022年度から実施されている学習指導要領では,情報の科学的な理解に重点を置き,「情報I」を必履修科目とした上で,発展的内容を扱う「情報II」を選択科目として設定しました.教科書用語の変遷は,解説3)をご覧ください.
本年3月に卒業するすべての高校生が「情報I」を学んでいることから,大学入学共通テストで「情報」を出題教科として,「情報I」をその科目とすることとなりました.しかし,高等学校の教科「情報」が設置されてから,大学入学共通テストで「情報」が出題教科となるまでの道のりは,長いものでした4).
2016年に,高等学校における情報教育のながれが大きく変わるいくつかの動きがありました.その1つは,2016年3月に,日本学術会議が「大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準:情報学分野」5)6)を策定したことです.情報学を,「情報によって世界に意味と秩序をもたらすとともに社会的価値を創造することを目的とし,情報の生成・探索・表現・蓄積・管理・認識・分析・変換・伝達に関わる原理と技術を探求する学問である.」と定義し,文系と理系にまたがる情報学を幅広く含んだ参照基準が作られました.
情報学の参照基準は,大学の学部教育における情報学の教育課程の編成のためのものですが,高等学校の教育課程からの連続性も十分に考慮されたものとなっています.情報学が,高等学校における情報科の親学問として位置付けされ,その内容が明確にされたことは,高等学校における情報教育の発展に大きく役立っています.なお,文部科学省は,高等学校の教科「情報」の英訳を,当初はInformationとしていましたが,2023年にInformaticsに改めています.
さらに,日本学術会議は,2020年9月に「情報教育課程の設計指針—初等教育から高等教育まで」7)を策定しました.情報教育課程の設計指針は,情報学の参照基準で示された理念を具体化し,小学校から高等学校,大学までの情報教育を体系化し,各教育段階で情報学のうちから何を学ぶことが望まれるかを「情報教育の共通のものさし」として一貫した形で整理したものです.萩谷昌己先生(東京大学)による解説8)9)をご覧ください.
さて,情報教育課程の設計指針は,いちど策定すれば終わりというものでなく,一定の期間の経過による改訂が必要です.たとえば,2022年11月のChatGPTの公開から,広く生成AIが扱われるようになり,情報教育課程の設計指針にAIに関する記述の追加が必要になっています10)11).
私は,26期より,日本学術会議情報学委員会情報学教育分科会の委員長を務めることとなりました.情報教育課程の設計指針の改訂に向けた手続きに携わっています.2026年頃の公表を目指して,日本学術会議での手続きを進めるとともに,関係機関との意見交換を行う予定です.本年9月4日に,北海道科学大学での第24回情報科学技術フォーラムFIT2025の開催に合わせて,情報教育課程の設計指針の改訂をテーマとするシンポジウムを計画しています.ぜひ皆様に参加していただき,ご意見をいただきたいと思います.
情報教育課程の設計指針が,高大接続のみならず,小学校,中学校,高等学校における情報教育の改善にも役立てられることを期待しています.