「論文誌を担当して知ったこと」
岸野 泰恵(論文誌担当理事)
論文誌担当の理事となり、1年半が過ぎようとしています。これまでお世話になる一方だった論文誌の担当となり、一読者、一投稿者だったときには、「自分の論文が厳正に評価されて返ってくる揺るぎない論文誌」、というイメージを持っていましたが、そのイメージは本当に多くの方の協力や努力の上で成り立っていること、一方でさまざまな課題も抱えていることを知りました。
理事として毎月の編集委員会に参加していますと、規定に基づいて淡々と論文を取り扱っていく、という事前の予想と異なり、二重投稿などさまざまな問題が発生していました。これに対して、会議の場では、経験豊富な編集委員の皆様の議論に基づいて判断し、その積み重ねで論文誌編集は円滑に運営されていました。
さらに、論文誌全体として見ると、投稿数や査読体制をいかに堅持させていくか、英文誌JIPのImpact Factor取得、arXivなどのリポジトリとの関係、といった課題があります。
現在のところ、JIPの活性化に向けて英文規約の整理・充実や、査読体制の維持に向けてディスクリジェクト制や剽窃チェックツール(英文)の導入に取り組んでいます。また、査読や編集委員会の作業効率化に向けて、オンラインストレージでの情報共有や、査読システムの利用法の開拓やシステムの見直しに向けた検討を進めてきました。このように、論文誌も時代に合わせて少しずつ変化しています。
一方で、Impact Factor取得、リポジトリとの関係性や根本的な査読システムの見直しなど、議論をしてはいますが、すぐに解の出ない長期的な課題もまだまだ残ります。残り半年の任期ではありますが、後任の方につながるよう多少なりと検討できればと思っています。
コロナ禍で編集委員会もすべてオンラインになりましたが、査読者や編集委員のみなさまには変わらず査読、議論いただき、問題なく論文誌を出版し続けられていることに感謝いたします。就任以来この状況で、実際にお会いしたことのない委員の方もいらっしゃるのは少し寂しく思いますが、移動せずに会議が実施できるメリットも関西在住の身としては強く感じているところです。
さて、私自身は小学生の子供2人の親でもありますが、子供たちは小学校で配布のあったタブレットPCを使い、台風で休校になったときに宿題をPCで確認し、運動会が近づくと家でYouTubeを見ながらダンスの練習をするなど、公立の小学校でありながらも親世代から見ると文房具のようにデジタルツールを使いこなす英才教育を受けているように感じます。この世代が研究をするようになれば、新しい常識でもって、今とは違う感覚で研究も発展するかもしれません。そのころになっても情報処理学会論文誌が日本の情報分野での研究を支える存在であれば、と思っています。
日本語で議論や発表のできる貴重な場としての和文論文誌、海外に向けて発信できるJIP、両論文誌は、歴代の査読者、編集委員が議論を積み重ねた貴重な財産です。今後の発展に、投稿、査読、編集さまざまな立場はあると思いますが、ご協力のほど、どうぞよろしくお願いいたします。