情報処理学会第69回全国大会シンポジウム

5周年を迎えたJABEE認定制度:現状分析と今後の展望

2007年3月6日(火)15:00-17:30
早稲田大学大久保キャンパス(東京都新宿区)

全体概要

司会:牛島 和夫(九州産業大)

JABEE認定制度がスタートして5年が経過した.情報および情報関連分野でも18プログラムが認定を受けており,2006年度の審査も行なわれている.また,JABEE内部では認定制度の見直しに関する議論も始まった.本シンポジウムでは,情報系専門学科の教育活動に対してJABEE認定制度が与えたインパクトを検証すると同時に,IT人材育成に関わる課題の整理を通じて,情報専門教育およびIT人材育成の今後を展望する.

PDF

講演1:JABEEによる大学教育へのインパクト(1)

掛下 哲郎(佐賀大)

佐賀大学知能情報システム学科では,2001年度より学部教育における教育システムの構築に着手し,2003年度にJABEE認定を受けた.本学科の教育システムの特徴としては,(1)学習・教育目標,評価基準,評価基準と科目の対応表を活用した系統的カリキュラム,(2)学科HP等を通じた各種の情報公開,(3)学科全教員によるFD活動,(4)学生に対する組織的ケアなどが挙げられる.また,JABEE認定による好影響としては,(1)第三者評価による緊張感と教育活動の改善,(2)学生の学力保証,(3)学科全教員による相互協力体制の構築,(4)定型業務のシステム化およびそれに伴う非定型業務への注力,(5)他大学や社会に向けた視野の広がりなどが挙げられる.一方で,JABEE認定制度に対する産業界の認識が十分とは言えない点や,IT人材育成に関する産官学の相互理解促進,産官学連携の推進などについては,今後の改善努力が必要と考える.

PDF

講演2:JABEEによる大学教育へのインパクト(2)

宇津宮 孝一(大分大)

地方の大学における技術者教育プログラムのJABEE受審準備から受審および認定に至るまでの受審側の体験と審査に関わった審査側の経験を踏まえ,JABEE認定制度に対する現状認識,認定効果,課題および将来の期待について述べる.ここでは,「計算機科学を基盤とし,知能工学を含む分野の基礎知識と基盤技術を確実に身につけ,社会の要求水準を満たす情報技術者を養成する」大分大学知能情報システム工学科「知能情報コース」を実例に取り上げる. このコースの設置理念,学習・教育目標,特色,実施状況や諸問題を題材にして述べ,更に,認定制度と教育現場が目指すものの間に存在するギャップについても触れる.また,PDCAの好循環による質的向上のために行ってきた地域のIT企業との「教育における産学連携」やJABEE認定後に学内で実施している「知の創造プロジェクト」などの取組みにも言及し,国際通用性のある人材養成のあり方についても考える.

PDF

講演3:非認定校から見たJABEE認定制度の課題

天野 英晴(慶大)

JABEEの導入には,教員の負担の増大,演習を積極的に行うことが困難になる,カリキュラムの改変や新たな科目や分野への進出が難しくなるなど,いくつもの問題点がある.さらに,情報分野における技術士の地位が確立されておらず,得るものも少ない. 情報分野のように新しい技術,知識が次々に生まれるホットな学問領域には,確立されたカリキュラムを前提としたJABEEは本質的に適さない点がある.学生による授業評価,自己点検等ファカルティデベロプメントをきっちり行い,きめ細かく学生に対して演習,実習を行い,定期的に外部評価を行う方式は,大きな負担と危険を冒してJABEE認定を目指すよりも学生にとって優れた教育システムを作ることができる可能性がある.

PDF

講演4:産業界のIT人材育成と大学への期待

富野 壽(JISA)

我が国の情報サービス産業の概況について簡単にふれ,JISAにおける人材問題の現状認識とJISAにおける高度ソフトウェア技術者育成への取組みの現状について紹介する.ソフトウェアの重要性は益々増大し,ソフトウェア技術者に対するニーズは多様化している.一方,ソフトウェアシステム開発の現場では,情報工学を専攻した人材が必ずしもを主役を演じていない産業界の実態がある.大学に対する産業界の期待は,いつにかかって将来さまざまなソフトウェア開発組織において主導的役割を演ずることができることができる特色ある優れた「実務家の卵」の育成であり,なかんずくソフトウェア工学についての基礎的素養を身につけた人材の輩出であることについてふれる.

PDF

講演5:JABEEおよび産学連携教育の現状

山野井 昭雄(JABEE)

私が2001年から2006年まで担当した日本経団連の産学官連携推進部会の主要なテーマは,今後益々進展し,また競争も厳しくなるグローバルな経済の下で,世界に通用する人材の育成に関するものであった.まず,ここ7〜8年来入社して来た技術系の新入社員(部会構成企業33社は約80%が修士卒)について調査し論議した結果,その特徴(良い点および問題点)が浮き彫りになった.国際競争力の維持,強化の上で,またフロント・ランナーとしてイノベーションを先導する上で,これらの問題点の解消をどう進めるかが課題になった.複数の仕組みが考えられ,そのうちいくつかは既に実行段階にある.仕組みの中の重要な一つがJABEE認定プログラムの実行であり,特に今後の大学院認定への期待感がある. なお,産学連携の重要性が喧伝され実情も進捗しているが,しかし相互理解はまだまだであり,その為の切磋琢磨の対話がもっと必要と考えている.

PDF